固定残業代とは?

初任給に限らず,エンジニアの給与には固定残業代という文言をよく見かけますよね. 固定残業代を含んでいる企業はブラックなの?それとも残業してなくても残業代をくれるからホワイトなの?という疑問を抱いたことをある方もいらっしゃるのではないでしょうか. この記事では,固定残業代とは何か,どのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します. ちなみによく似た単語であるところの「裁量労働制」についても,記事を書く予定です. -> 書きました!裁量労働制とは?

固定残業代とは?

固定残業代とは,実際に働いた時間に関わらず,あらかじめ決められた残業代を支払う制度のことです.より正確に述べるならば,「残業時間が一定時間を下回った場合,定められた時間残業したものとみなす」という制度になります. すなわち,固定残業時間が30時間であった場合,残業時間が15時間であったとしても,30時間分の残業代が支払われることになります. 一方で,残業時間が30時間を超えた場合は,超過分の残業代が支払われます.ここは誤解しやすいポイントですので,しっかりと理解しておきましょう. たまに,「固定残業代が30時間分の場合,残業時間が30時間を超えた場合も30時間分しか残業代が支払われない」という誤った説明をする企業もあるようですが,企業がどう認識していようが支払う義務がありますから,その場合はしっかり主張すべきでしょう.

と,ここまで聞くと,労働者にとってはメリットしかないように思いますね.実際,制度が正しく運用されれば,そのように思われます.しかし,落とし穴がないこともありません.それを確認していきましょう.

固定残業代の落とし穴

固定残業代によって,必要以上に給料が多く見えてしまう

固定残業代があると,年俸が大きく見えるので,ほかの企業よりも多くの給料がもらえるような気がしますよね. しかし,ほかの会社にも残業はありますよね?さらに,これはあくまで私の主観ですが,固定残業代が多く支払われるタイプの企業は,賞与が少ない傾向にあります.

以下の求人を見てください.どちらのほうが給料が高そうに見えますか?

  • A社
    • 年俸500万円(固定残業代30時間,賞与込み)
  • B社
    • 基本給23.6万円(残業代,賞与別)

ぱっと見,A社のほうが給料が高そうに見えますよね.しかし,適当に仮定を置いてみると,B社のほうが給料が高いことがわかります.

年俸が500万円.固定残業代30時間分,賞与2か月分を含むA社の場合

メガベンチャーによくある新卒求人といえますね.賞与が比較的少ないのが特徴です. 計算は省きますが,固定残業代30時間分,賞与2か月分を含む年俸500万円の場合,基本給は約30万円となります.

基本給が約23.6万円,平均残業時間8時間,賞与が9か月分と予想されるB社の場合

いわゆる大手SIerなど,日本企業のモデルケースです. この場合,実際に計算すると,年収は約511万円となり,A社と同じか,やや上回ります. もちろん,賞与は流動的なものであるので,変動が予想されます.

「おいおい,賞与9か月分を後出しするのは卑怯だろ!」と思いましたか?その通りです. ですが,賞与というのは年収に大きな影響を与えるので,実はとても重要な要素なのです. 固定残業代に目が行きがちですが,実は賞与の寄与する割合のほうがよっぽど大きいです. というのも,A社の場合,固定残業代は一年で約78万円が支払われます.B社の残業代は16万円ほどですから,60万円の差がついています. しかし,賞与の差はなんと212-60 = 152万円!これはきわめて大きいです.

給料比較まとめ

つまり,固定残業代の違いよりも,賞与の違いのほうが大きく,むしろそちらを比較する必要があります.なのに,賞与の額というのは基本的に求人票には記されませんし,学生もあまり重要視していないように思われます. これはいけません.ぜひともOB訪問や口コミサイトなどで,賞与が大体どれくらい支払われるのかを確認しておくとよいでしょう.

ちなみにですが,メガベンチャーの賞与ってなんとなく毎年決まった額がもらえるかも?な風にギリギリ読めなくもない風に書いてありますが,あれはたいてい「基準賞与額」なので,普通に業績や自分の評価によって上下します.全然流動的で減ることも増えることもあるので,一応知っておいてください.

固定残業代を踏み倒そうという会社もある

先ほども言った通り,固定残業代は,残業の有無にかかわらず最低限支払わなければなりません. いわゆるメガベンチャー程大きな会社であればないとは思いますが,リテラシーがあまり高くない会社においては,上司が勘違いしている,あるいはわざと誤魔化しているといった理由で,「仕事がノルマに達していないため,固定残業は支払えない」のようなことを言われることがあるかもしれません. そのような場合には,固定残業代は仮に残業時間が0でも支払われるべきものであることを主張しましょう.

固定残業代tips

(重要!)固定残業代と賞与の関係

改めて言っておきますが,基本給という言葉には二重の意味が含まれることがあります.それは, $$ (偽の)基本給 = (真の)基本給 + 各種手当 + 割増賃金 $$ です.各種手当と割増賃金には職務手当とか固定残業代とか入りますが,ここでは $$ (偽の)基本給 = (真の)基本給 + 固定残業代 $$ と思っていてください. たまにあるんですよね,基本給といいながら固定残業代が含まれている場合が.ただ,一般的に,賞与の計算に使う基本給は「真の基本給」です. つまり,いわゆる福利厚生や賞与の「給料nヶ月分」には, 固定残業代は含まれません!

先ほど「固定残業代があると,基本給が大きく見えてしまう」と言いましたが,それがここに響いてきます.つまり,偽の基本給が25万円あったからと言って,ボーナス4ヶ月分は25*4 = 100万円ではありません! ……ということなので,ボーナスとかを期待する場合には,気を付けておきましょう.このあたりは自分で残業してその分残業代がつくように働いていると見失いにくいんだと勝手に思うんですが,固定残業代として月額の給与になんとなく追加されると忘れてしまうんですよね (企業側もあえてちょっとわかりにくくしてる気もしますが). しかも,それを併せて「基本給です!」とよぶ会社もあったりするっぽいので,なんだか月給が相場より高いなこの会社?と思ったら,ちゃんと真の基本給と偽の基本給を区別してとらえなおしましょう.

固定残業代を含んだ年収から,基本給を計算してみよう

さて,会社によっては固定残業代を合わせた金額しか募集要項に書いてなかったりしますよね.ただ,先ほどから何度もお伝えしている通り,比べるべきは真の基本給(と賞与)です! ……ということで,以下のスプレッドシート(準備中.すいません)を使えば,固定残業時間と総年収から,基本給を計算することができます.

中身が知りたい人は,以下を読んでください.知らなくてもスプレッドシートを使えば結果はわかりますが,知って理解したほうがいい内容ですからね. そもそも残業代とは,労働基準法によって定められた労働時間(基本的には,1日8時間)を超えた時間に対して支払われる賃金のことです. そして,残業代には割増賃金が付きます.基本的には1.25倍ですね. 深夜労働を含む場合には,その部分は合計して1.5倍となります.

それでは実際に計算をしましょう.

ちなみに,最終的に雇用契約書を結ぶ段階にあっては,固定残業代を除いた基本給,賞与,固定残業代が何時間分なのかといった情報が提示されなければなりません(労働基準法第15条第1項).なので,最後までわからないということはないんですが,内定とるまで真の基本給知らないというのもよくないと思いますし,気軽に計算してみるといいと思います.

賢く固定残業代と向き合おう

整理して考えると,あんまりややこしくはなかったはずです.「残業してもしなくてもお金がもらえるから得」は全面的に正しいですし,それはそれとして「固定残業代を含めて基本給だと思うと比較を誤る」というのも全面的に正しいです.この二点を理解してさえいれば,正しく給与を比較することができます.

くれぐれも,「あの会社基本給20万なの?こっちは25万だよ(なお,後者だけが固定残業代を含む)」という比較はしないようにしましょう.比較するときは条件を揃えようって習いましたよね.

まとめ

今回は固定残業代について解説しました. 固定残業代は残業してもしなくても残業代がもらえ,しかもそれを超えて残業した場合には追加でも残業代が支払われるという,基本的には労働者有利の制度です. しかし,求人票上の印象を実態以上によく見せてしまう効果もあり,固定残業や年俸制を採用していない企業と比較する場合には,その会社の平均残業時間や賞与を考慮しないと誤った判断をしてしまうことになりかねません.さらに厄介なことに,賞与は比べにくいです.よって,OBに聞いたりとか昨年実績とかを調べたりする必要があります.

何はともあれ,固定残業の制度をしっかり理解して,自分にとって最適な企業を見つけましょう.

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