裁量労働制ってなんだ?!固定残業との違いを解説します

裁量労働制って,最近よく聞きますよね. 固定残業との違いがよくわからない,という人も多いのではないでしょうか. この記事では,どういう制度なのか,どういう場合に適用されるのか,給与などの計算はどうなるのか,といったことを解説していきます. ちなみに固定残業代については,こちらの記事 で詳しく解説していますので,ぜひご覧になってください.

裁量労働制の定義

裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の二種類がありますが,いずれの定義も厚生労働省のページ に記載されています.一般的にエンジニアが裁量労働制として働く場合は,専門業務型裁量労働制に該当すると思われますので,本記事では専門業務型裁量労働制について解説していきます.

専門業務型裁量労働制とは?

ざっくりいえば,「専門業務」を行う労働者に対して,何時間働いたとしても,所定労働時間労働したものとみなす制度です.専門業務が何を指すかは,後述します.

それって,いくら働いても残業代が出ないってこと?

裁量労働制においては,実際の労働時間が所定労働時間を超えても,残業代は出ません.いくら働いても,所定労働時間分の仕事をしたとみなされるわけですからね. これはもちろん逆もまた然りで,実際の労働時間が所定労働時間を下回っても,所定労働時間分の仕事をしたとみなされます.これ自体は法律でそう決まっているので,仕方がありません. ただ,問題なのは「裁量労働制」を適用すべきではない場合に,裁量労働制を適用していることがあるということです.

裁量労働制を適用していい業務と,適用してはいけない業務

さて先ほど「専門業務」という単語の説明を保留しましたが,ここで説明します. 労働基準法第38条の3第1項

業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務

と書いてありますが,これはつまり,

  • 労働者の裁量が大きく,時間配分などを使用者(会社)が具体的に指示するのが難しい業務

  • 厚生労働省令で定められている業務

    の二つを満たす業務のことを指すと思って概ね間違いないと思います.

これはどういうことかというと,専門業務というのは案外に狭い範囲であって,例えば「プログラマー」という業務は専門業務には該当しないことを説明します.

専門業務の具体的な事例

先ほど二要件を満たす業務を専門業務と呼ぶと説明しましたが,これをもう少し具体的に説明します.一つ目はある程度明解なのでよいですが,「厚生労働省令で定める業務」というのを具体的に,エンジニアに関連しそうな部分を抜き出して説明します.

情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務

ここで,「分析または設計」とは,

  • 業務処理方法の選定
  • アプリケーション・システムの設計,ソフトウェアの決定
  • システムの評価,問題点の発見,解決のための改善

と定義されていて,また特に,「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれません。」と名指しで明記されています. つまりは,ここで示されているのは,いわゆる上流工程の作業であるということになります.

事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)

これは,今存在しているシステムに対してヒアリングなどを行って問題点を把握したり,システムを活用するための方法を考案したりする業務です.書いてある通り,コンサルタント業務と言えます.

ゲーム用ソフトウェアの創作の業務

「創作」という言葉が若干あいまいですが,補足がなされていて,「シナリオ作製(全体構想)、映像制作、音響制作等が含まれます。」とあります.また具体的に,「専ら他人の具体的指示に基づく裁量権のないプログラミング等を行う者又は創作されたソフトウェアに基づき単にCD-ROM等の製品の製造を行う者は含まれません。」と明記されており,いわゆる発想力が必要な部分を指していると思われます.

もちろんこれらのほかにも列挙されているのですが,エンジニアに関わりそうなものを抜き出しました.すべての業務を確認したい場合は,厚生労働省の「専門業務型裁量労働制の解説」 をご覧ください. ですが大事なことは,専門業務はどんなに広く見積もってもここで列挙している業務以外を含まないということです.

「専門業務」に含まれていそうでも該当しない場合

ところで,厚生労働省のいうところの専門業務に該当してそうな場合でも,裁量労働制を適用できない場合があります.それは,二要件のうちのもう一つ,「労働者の裁量が大きく,時間配分などを使用者(会社)が具体的に指示するのが難しい業務」を満たしていない場合です. 具体的には,以下の留意点が挙げられています.

実は裁量ないでしょ,って場合

業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねることができないにもかかわらず、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないことを労使協定で定めても、専門型の適用によるみなし労働時間制の適用はありません。

つまり,実質的に労働者に裁量がないのに,「いやいや,うちは裁量に任せているんですよ」って形式的に宣言しても,それは裁量労働制を適用できないということです.実際に,後から裁量がないことが判明した場合には,適切な残業代を支払う必要があります. 具体的には,以下のような例が挙げられています.

例えば、数人でプロジェクトチームを組んで開発業務を行っている場合で、①そのチーフの管理の下に業務遂行、時間配分が行われている者や、②(中略)は専門型の対象とはなりません。また、(中略)、プログラマー等は、専門型の対象とはなりません。

要するに,契約書に裁量がありますよ!って書いてあるだけではだめで,「自分で労働時間を本当に決められる人」でないと適用できないということです.上記の場合,チーフだけは裁量労働制の対象になりそうですね.

裁量がある仕事とない仕事が混在している場合

専門型の対象業務と対象業務とは全く異なる業務(非対象業務)を混在して行う場合は、たとえ非対象業務が短時間であっても、それが予定されている場合は専門型を適用することはできません。

これはつまり,本当に裁量労働制を適用できる業務についていたとしても,それとは別に業務時間等を指示されるような仕事も行っている場合には,裁量労働制を適用できないということです.

途中まとめ:こういう裁量労働制はやばい!

裁量労働制は残業代をカットできるということで,会社にとっては非常に魅力的な制度です.しかし,以下の場合には裁量労働制を適用してはいけないことになっているので,注意が必要です.

  • 明らかに処理できない分量の業務を与える場合
  • 使用者から始業または終業の時刻のいずれか一方でも指示される場合
  • どれくらい労働しているかを把握していない場合

裁量労働制を適用できないはずなのにされてるかも!って場合

さて,ここまでで,裁量労働制を適用できる業務について説明しました. しかし,実際には,裁量労働制を適用できない業務に対して,裁量労働制を適用している場合がありますよね.そういう場合には,労働基準監督署に申し立てることができる可能性があります.(毎回のことで恐縮ですが)私は弁護士ではないので,個別の事例についてアドバイスすることはできません.実際に困った場合には,労働基準監督署や弁護士に相談してください.

まとめ

裁量労働制は,「専門業務」を行う労働者に対して,何時間働いたとしても,所定労働時間労働したものとみなす制度です.ですが,専門業務は定義が狭く,当てはまる場合とそうでない場合があります. 裁量労働制が適用されるべきでないのに適用されていて,かつ不利益が生じている場合には,労働基準監督署に申し立てることができる可能性があります.

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